凹む

デザインのネタ探しにイラストレーションという雑誌を見ていたら、どうにも見た事のある名前を見つけた。専門学校時代、隣の席にいたやつだ。抜群に上手かった。いろんな賞にばんばん通っていた。あのころ誰が上手かったかという話をすれば、そいつの名前を出して終わりだ。もうどうしようもなく上手いのでね。そいつじゃないかと思ってドキドキした。確かデザイン会社に入ったと思ったが……。
その絵は江戸時代な感じで、とてもきれいにまとまっていた。だけど、ちょっと見ただけではわからないが、人物の目が、まるで日本画的なその場には似合わないキャラっぽい目をしている。わざとだ。そしてそいつはそういう事をするヤツだった。上手いくせに上手いだけじゃ飽き足らなくて、いつもなにか仕掛けしていた。間違いない。僕はネットでそいつの名前を検索して、そいつが夢であった時代小説の装丁をしている事を知った。そういえばあの頃、よく御家人斬九郎の話をしたっけか。
世の中に、専門学校のイラストレーション科を卒業してフリーのイラストレーターになれる人間がどれくらいいるのだろう。あいつはなった。事実としてなった。雑誌に紹介されるまでになった。抜群に上手かったからそうなってもおかしくはないし、絶対に努力もしただろうから手放しで拍手するのもやぶさかではない。それでもやっぱりちょっとだけ悔しくて凹むのは仕方のない事なんだろうなぁ。