文庫化の前の電子化

PDABOOK.JPにて、奥田英朗イン・ザ・プール』と、先の直木賞を受賞した続編『空中ブランコ』がドットブックで同時に発売となった。これは画期的なんじゃないかと思う。
これまで電子書籍は、印刷の必要がないことから文庫本よりも低価格で発売できるのではないかと思っていたのだけど、諸般の、大人の事情でそうもいかないということは、うすうす感じていた。だが何にせよ採算をある程度度外視してでも底辺を広げないことには、マーケット自体がなりたたないので、どうするのだろうと気にしていた。その答えがここにある気がする。つまり、文庫化の前に電子化、である。そうすればハードカバーよりも安価で文庫よりも高価な価格を提示できるわけだ。『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』は800円となっている。ハードカバーであれば共に1300円のものだ。お得な感じはするだろう。
思えばデータだけのものは、そのポジションにいるのがいいのかもしれない。着うたなんかがそうかな。モノとして発売する前に、データを買える。存在価値の薄さを上手く利用しているのだと思う。そしてデータを買って気に入れば、アーカイブとして安心できるメディアで発売されたものをまた買うだろう。DVDも発売前にレンタル開始したりするし。
そういう意味で、文庫化の前の電子書籍化はいいとこついたと思う。しかも話題になった書籍でやるところがにくい。ハードカバーはあまり買わないけど、気になるので読みたい。当然人気なので図書館でもいつも貸し出し中。古本屋にもない。というか探すの面倒くさい。いくらか金を出してもいいけどハードカバーより安いと嬉しいな。というような複雑な多層ジレンマが見事に解消されている。ひょっとして電子書籍は売れるかも。じゃあ電子書籍のためのマシンも増えるかも。とまで考えを進めてしまった。それくらい未来のあるコンセプトだ。
なにより、僕は今『イン・ザ・プール』と『空中ブランコ』に対して、まさにそういう状態にあったのである。買います。はい。