一番安いのにDeluxeとはこれいかに

毎月買っていたマンガ雑誌の裏にVisor Deluxeの広告が光り輝いていたころ。僕はあるジレンマに陥っていた。
印刷しないでデジタルテキストの持ち運びがしたかった。原稿をパソコンで打ち、プリントアウトして持っていき、打ち合わせの内容を手帳にメモして、家でデジタルテキストに打ち直す。2度書くことで確認の意味もあるから、いいと言えばいいのだが、なにか無駄な気がしていた。
Palm OSマシンには目をつけていたのだが、なにぶん金がない。その時点で必要かどうか判断しきれていないものに1万円以上を出すのは、たまに家賃の督促状をもらってしまうフリーのデザイナーには正直キツかった。Palmのm100が一万円台前半になったときに、なんだかカバーがいろいろ変えられて、これなら買えるなぁと思ったが、なぜだか踏ん切りがつかず買わずじまい。
そんなところにVisor Deluxeが9,800円になったというニュースが到来。しかも知合いがアイスカラーを購入。貸してもらって始めてのグラフィティ入力が、対応表も見ずにいきなりほぼ100%成功。
あら、ぜんぜん使えるじゃない。ということで「今だ!」とばかりに買ってしまったわけである。
色は僕の人生のテーマカラーでもあるグリーン。オレンジやアイスがどんどん売りきれていく中、なぜか売れ残っていたグリーン。複雑な気持ちを胸に駅前の量販店の紙袋をひっさげた僕は、我慢しきれずに地下鉄駅の構内で、まるで米だけの弁当を隠しながら食う貧乏人のように、ちょこっとだけ箱をあけた。もぞもぞと電池を入れ、おそるそる電源ボタンであろうと思われる黒いボタンを押した。かくして地下鉄の車両内で僕と僕のPalmOSとのファーストコンタクトが行なわれたのであった。