既存のニュースを信じない場合(再録)

 今日はテレビを見ない日にしました。多分、何も信じられないと思うので。自分の考えすら信じることができない事件ですから。卵が先か鶏が先か。ただ言えるのは、悲しんだり苦しんだりしている人の支えになることはいい事だというくらいです。
 去年の12月に書いたコラムを再録します。ニュースサイトのURLが変わっていたので修正しましたが、あとはそのままです。
【既存のニュースを信じない場合】
●911
 ここ数ヶ月、僕のVisor Deluxeでの読書の大半を占めたのは、あの忌まわしき911であった。闇雲に朝まで何の進展もないTVニュースを見てから寝て、起きると世の中が少なからず変わっていた。ワイドショーから夜のニュースまで、すべてが同じ事件一色に染まり、ニューヨークの惨状を延々と伝える。やがてWTCは崩壊し、アメリカは史上まれにみる注目度と共に、戦争へと突入して行った。
●悪者見参
 事件を遡ること半年前、僕は一冊の本を読んでいた。ノンフィクション・ライター木村元彦氏の著書「悪者見参〜ユーゴスラビアサッカー戦記」である。これは、ユーゴスラビアが生んだサッカー界のスーパースター、ピクシー(妖精)ことドラガン・ストイコビッチを軸に、内戦の嵐吹き荒れるユーゴを取材し、半ば必然としてテロや国家間の政治的な話までが出てくる本である。サッカーとは実際に戦争が起こってしまうほどの世界的スポーツであることは聞きかじってはいたが、実際に詳しく調べたことが無かった僕にとって、ストイコビッチのファンでもあることから、サッカーと世界情勢を知るにはうってつけの本だと思い購入した。そして僕は、アメリカという国のの恐ろしさを知ることになる。
 詳しくは読んでもらうのが一番なのだが、僕が衝撃を受けた部分を抜粋すれば、国連が軍事介入をしないと決議したにもかかわらず、それを不服としたアメリカはNATOを引き連れて空爆を開始したという事実。そして、その空爆によって爆撃された病院や一般市民の存在。そして、使用された劣化ウラン弾の恐ろしさである。著者もストイコビッチのファンであり、かつユーゴに何度も足を運んでいるので、ユーゴ側の実状を把握している。だからこそわかるアメリカの無理解からくる横暴さに、読んでいる僕も腹が立ち、同時に何も知らない自分が恥ずかしくなった。僕はその時思い出していたのだ。Jリーグの試合中、ストイコビッチがユニフォームを脱いだアンダーシャツに何か文字が書かれているのを。それをただの仲間へのメッセージか何かだと勝手に思っていたのだ。この本の表紙にもなっているそのアンダーシャツにはこう書かれている「NATO STOP STRIKES」。
●絶対正義とインターネット
 かくしてアメリカと反対側の国にも理由と歴史と現状があり、アメリカが全て正しいわけではないという、あたりまえすぎることに気づいた僕は、911以降に展開されたアメリカの絶対正義のもとでの空爆に疑問を持った。日本のメディアは連日被害者としてのアメリカしか報道しない。悲しみを乗り越えて、勇気を持って戦うヒーローのアメリカしか見えてこない。アフガニスタンとはどんな国なのか、なぜ自分の命を捨ててまで攻撃することができるのか、はたしてアメリカが絶対正義なのか。それを知るすべを僕は持っていた。インターネットである。
 JMMというのをご存知だろうか。Japan Mail Mediaの略で、作家の村上龍氏が編集長を務めるメールマガジンを主な媒体としたメディアのことである。1つの事柄に対し、なんらかの関わりを持ったその道のプロ達の寄稿によって成り立っているメールマガジンで、ニュース源として僕の中ではバランスと説得力が一番あるものという位置づけになっている。911に関しても、アメリカの意見でも日本政府の意見でもなく、アフガニスタンで実際に活動していた人物と村上龍氏の対談がまず発送されてきた。対談相手というのが、なんと気の触れた悪の権化だと思っていたタリバンに、守ってもらいながらアフガニスタンで働いていたという山本芳幸氏である。この時点で、この世に絶対正義だとかいうものは存在しないことがはっきりと解った。山本芳幸氏による911以前からのアフガニスタンビン・ラディンに関するレポート「カブールノート」の存在も知ることができた。JMMには各国にコラムを提供してくれる人がいるので、それぞれの国での見方を知ることもできる。バックナンバーが全て公開されているので、2001年の締めとして読んでみるのもいいだろう。
 メールマガジンといえば、もとがメールマガジンなのだが、そのままasahi.comに転載されている作家の池澤夏樹氏によるコラム「新世紀へようこそ」も、また違った視点で読めるので興味深い。作家ならではの文体のまとまりと読みやすさは、コラムニストやジャーナリストとはまた違った味があり、論点を絞ったコラムが単発で終了していくので、時間のない人や簡単なところから理解したい人にとってはありがたいコラムだろうと思う。
 純然たるコラムニストの書く世界ニュースも、やはり欠かせないだろう。僕がおすすめしたいのはフリーの国際情勢解説者である田中宇(さかい)氏のサイト「田中宇の国際ニュース解説」である。これはもう、サイトのトップに「新聞やテレビを見ても分からないニュースの背景を説明します」とあるとおり、日本のマスコミがわざとなのか無能なのか報道していない過去の事件とのつながりや、英文なので僕は見ていないが、他のサイトで公開されている情報ともリンクして展開されるコラムを読むことのできるサイトである。メールでも配信されているので、時間の無い人でも安心だ。
 そして最後におすすめしたいのは、ほぼ日でも話が出ていたので知っている方も多いかも知れないが、現在パキスタンで生活をしているオバハンなる人物が、問答無用で実状を日記に綴っているサイト「日・パ旅行社」である。これはその名の通り、現地でのコーディネートなどをしている会社なのだが、このオバハンの、実状を知っている上での痛快な話はアフガニスタンをぐっと身近なものにしてくれる。それだけでも十分価値があるし、日本の政治家がパキスタンを訪れた際の裏話などは、あらためて日本の悲しさを教えてくれる。
●権力のコントロールがおよばない世界
 結局のところ、日本がアメリカ側につかなければいけないように、納得できなくても理解はできる話というのはある。僕はアメリカだけが悪いとは思っていないし、国際情勢がそんな単純なものであるはずがない。ただ、双方の実状を把握し、周囲の目線を知り、なぜそうなるのかを理解したかったのである。アメリカ側の意見は嫌になるくらい流れてくるので、アフガニスタン側の意見や平等に物事を見ている人の意見を知ることが必要だと思ったのだ。
 それは政治権力や金や人気で片寄ってしまう既存のニュース媒体では、悲しいことに不可能である。しかし、僕たちにはインターネットがある。良きにしろ悪しきにしろ、権力のコントロールがおよばないデジタルの世界があるのだ。デジタルテキストを手軽に読めるVisor Deluxeのおかげで、よりインターネットメディアを深く知ることができたことを、僕は誇りにすら思っている。
●文中で紹介した、ニュースソースのテキストがあるサイト
JMM(Japan Mail Media)⇒http://jmm.cogen.co.jp/
対談“同時多発テロの意味”山本芳幸×村上龍http://jmm.cogen.co.jp/jmmarchive/a027001.html
カブールノート⇒http://www.i-nexus.org/gazette/kabul/index.html
新世紀へようこそ⇒http://www.impala.jp/century/index.html
田中宇の国際ニュース解説⇒http://tanakanews.com/
日・パ旅行社⇒http://www.pat.hi-ho.ne.jp/nippagrp/index.htm