DOCで読んだもの No.0001

スカーレット・ウィザード
著者:茅田砂胡 (KAYATA Sunako)
形式:ドットブック

                                                                • -

 いよいよ僕も電子書籍というものを読んでみよう。そう思いたってはみたものの、なんとなくPalmで書籍を読むというのは、まだ不自然な感じがしていた。解像度やその他もろもろの見た目や使い勝手が、読書というものを完璧にトレースすることはできないと感じていたからである。
 読書とはその世界に入り込んで、文字を追うとかページをめくるという行為を無意識のレベルにもってこないと、本当に読書したとは言えないのだと僕は思うのだ。しかし、その当時僕の中に沸き上がった「電子書籍を買って読んでみる」という行為に対するあこがれは、手段と目的を逆転させた。そして僕は「多少読みづらくてもテンポや勢いで引っ張っていってもらえる書籍を買えばいい」という結論に達したのだった。
 僕が一番本を読んでいたのは高校時代である。当時の僕は、オタクと呼ばれる底なし沼に片足を突っ込んでいた。SFやファンタジーと呼ばれるジャンルの小説を、CDで言うところの「ジャケ買い」していたのである。そういった小説には必ず人気イラストレーターによる挿し絵が入っていたので、半ばそれを目当てに買っていたのである。僕が今デザイナーという仕事をしているのは、この頃の趣味が高じているのだと思う。
 というわけで、探す電子書籍のジャンルは決まった。「SF」である。サムライフィクションでもなければステレオ・フューチャーでもなく、サイエンス・フィクションである。それもハードな設定のものではなく、多少、いやかなりメチャクチャな設定でもいいから、とにかく面白くてどんどん読めそうなものを探そう。主人公はもうアホみたいに強くて、敵をバッタバッタとなぎ倒し、それでいて会話はウィットに富んでいて、キャラクターがきちんと描き分けられているもの。つまり、爽快で、説明書きがあまりなく、登場人物に特徴がないから途中で「これ誰だっけ?」などど中断させられたりしないもの。そういうのを探すべし。そう心に決めて、僕はPDABOOK.JPのドアを叩いた。そしてスカーレット・ウィザードに出会ったのである。
 なんというか、まさしく本というのは出会いが重要だと思う。運命とすら言ってもいいかもしれない。面白いものは表紙を見ただけで欲しくなるし、つまらないものはタイトルを見ただけでつまらないと決めつけてしまう。本というのは、中身に触れずしてくっきりと勝敗が分かれがちだと思う。ゆえに電子書籍販売サイトさんにはもうちょいと頑張って欲しいと思う。まぁとにかく、スカーレット・ウィザードは「僕の目についた」のである。「なんか気になった」のである。おそらく要因の一つとしては、表紙のイラストが漫画っぽいというのがあっただろう。劇画や写実的な絵、写真などでは気軽さが足りない。かといってアニメのセル画っぽいのはうんざり。その絶妙なすき間をスカーレット・ウィザードは突いてきたのである。簡単な解説文には『海賊達の王という異名を持つこの俺に、エネルギーと情報の二つを支配するクーア財閥の女王から仕事の依頼が。だが、出されたものは『婚姻届』だった。かなり異色な宇宙恋愛物語。』とある。海賊達の王ということは、強い上に強さを披露する場が多いという事だ。さらに財閥の女王から仕事の依頼。でもって婚姻届。ハチャメチャである。そう、その時の僕は、そんなハチャメチャを求めていたのである。
 逆に言えば中身はない。読んでためになるわけでもなければ、なにか科学的な知識が得られるわけでもない。ただ、美男美女の無敵の海賊王と元軍人の財閥の女王が、金も地位も人脈も使い倒してバッタバッタと悪人を張り倒していく様は、まるで未来の水戸黄門のように爽快である。そしてこの作者、その辺のスピード感のある描写はなかなかに上手い。ある時はレーザー銃でビルをぶった切り、またある時はその時代の世界最高速度の二倍以上で宇宙船を操る。もはやなんでもありである。自分に置換えるだとか、人生の悩みだとかはすっかり忘れて、ただ単に楽しむべきエンタテインメント。それがスカーレット・ウィザードなのである。
 というか、読書感想文ってこんな書き方だっけか。なんか違う気がする。