予想と偶然のジャムセッション

●リプレイ
事実は小説よりも奇なりと言います。誰かが考えた偶然よりも、本当に起こった偶然の方が、たとえインパクトが無いものだとしても奇妙で面白いと言うことです。かと言って読み物として作ることを前提にした場合、そうそう偶然のアクシデントばかりをあてにするわけにもいきません。ということで、偶然を考慮した上でルールを作り、大まかなシナリオの中で自由に行動した人間の記録を取るという読み物があります。俗に「リプレイ」と呼ばれるものです。
今回ご紹介するのは、TRPG、すなわちテーブルトークロールプレイングゲームのリプレイです。ロールプレイングゲームとはドラゴンクエストやFFに代表されるように、プレイヤーが登場人物となって物語が展開されるゲームです。それを、複数の人間が一つのテーブルに集まって、紙に書いた数値を鉛筆で修正しながら、会話(トーク)を中心に遊ぶのがTRPGなのです。


●コンピューターよりも人の脳
基本的に人間の頭の中で行われるゲームなので、その自由度は半端ではありません。当然ながら同じシナリオのゲームを何度やっても、結果は違うものになるでしょうし、大抵はプレイヤーの判断にサイコロを振って出た数値の偶然性を加味して進められるので、常にリアルなアクシデントがつきまといます。電波少年型のテレビ番組のようなものです。ゲーム内容のドタバタぶりは、時に冗談ではないかと思えるほどの偶然を生み出し、読んでいる人間まで、ライブ感覚でハラハラさせてくれます。
コンピューターゲームでは、作った人間が用意したもの以外には触れることもできませんが、会話ゲームでは想像できること全てが可能になります。というか、コンピューターでのRPGは、このTRPGをもとに縮小して一人で遊べるようにアレンジしたものなのです。最近ではネットワークを利用することによって、多少自由度は上がっていますが、プレイヤーのとっさの思いつき全てに対応できるわけではありません。例えば、穴を掘りたいと思ったとき、TRPGでは手だろうと鎧の肩当てだろうと何でも使えるわけです。ところがコンピューターゲームでは、スコップがないと穴が掘れなかったりします。下手をすると何かが埋まっている所以外の土は掘れなかったりします。そんな不自由な人間などいるわけがないのです。もちろん、勝手に穴を掘ると、付近の住民に怒られたりします。プレイヤーはそこで住民と対話し、新たな展開が生まれることもありますし、街を追い出されることもあるでしょう。それもまた自由ということです。


●リプレイを書くにふさわしい人物
TRPGにおいては、思いつきに対応するための人間を一人用意します。GM(ゲームマスター)と呼ばれる人間で、一応ゲームのはじめから終わりまでを把握して、進行をしながら街の人になってプレイヤーにヒントを出したり、時にはモンスターになって邪魔をしたりと、ゲームをコントロールする役割を担います。プレイヤーはGMからのヒントなどで物語の謎を解明していくわけです。GMとプレイヤーとの駆け引きや、とんでもない質問に狼狽するGMなどは読んでいて思わず吹き出しそうになるほど面白いものです。常に自分たちの身の安全や、ミッションの成功を考えていればいいプレイヤーと違い、GMはゲーム全体のことをつねに考えていますし、大抵はそのゲームのシナリオを作るのもGMですので、リプレイを書く人間はほとんどがGMです。
元々が会話なので、それを録音して文章におこせば、基本的には同じ状況が再現できます。しかし、その場の雰囲気を第三者に伝えるには、戦闘の部分を省略してみたり、場の空気をト書きにしてみたりする必要が出てきます。ストーリーにはなんら関係のない無駄口のたたき合いもライブならではの味わいですが、あまり脱線しすぎると本編が薄くなってしまいます。そういった、対談の編集のような作業を経て、リプレイは公開されているのです。


●神様が書いた読みやすい小説
編集者の腕によって優劣はあるものの、考え込まれたストーリーと、思いも寄らない本当の偶然が同居するリプレイ。これは、プレイヤーも書いた本人ですらも予想だにしないルートをたどり、当初の予定とはまったく別の結末を迎えているという可能性も十分にあります。いわば神様(山田さんじゃなくて)が書いた小説だと言えるのかも知れません。
リプレイは基本的に会話を文字に起こしたものなので、くだけた口語です。対談のようなテンポのいい読みやすさがあります。気の利いた編集者は、ゲームのルールなども挟んで書いてくれたりします。ですが、多少ルールが解らなくても大丈夫。気にせずに読んで雰囲気さえつかめば内容はわかります。面白さは充分伝わります。重要なのはルールではなく中身ですから。
また、今年はハリー・ポッターやロード・オブ・リングなどファンタジーが注目を集めている年でもあります。たまにはこういうのも面白いものですよ。


●おすすめサイト&リプレイ。
六畳和室東向き⇒http://www.phoenix-c.or.jp/~tar/
(TOYBOX→悪魔の刻印)

いちゾロ屋インターネット支店⇒http://isweb32.infoseek.co.jp/play/itizoro/menu.html
(リプレイ)

RI財団⇒http://www2s.biglobe.ne.jp/~iwasiman/foundation.htm
(ガープス妖魔夜行→『玉静 〜たましず〜』)

グループSNE⇒http://www.groupsne.co.jp/
(ENTER→読み物コーナー→バニーズ・アンド・バロウズ・リプレイ)